講師
藻谷 浩介 氏
株式会社日本総合研究所 主席研究員
株式会社日本政策投資銀行 地域企画部 特任顧問
特定非営利活動法人 ComPus地域経営支援ネットワーク 理事長
講座プログラム
人口成熟の進むロシア、そして世界。先んじて成熟を経験し、対応を進めた日本の産業に教訓を学ぶ。
1時限目: ロシアの人口成熟と、日本、米国、欧州、中国などとの比較
① ロシアを含む、世界の多くの地域で、人口成熟が進んでいる。人口成熟とは、少子化、高齢化、現役世代(生産年齢人口)の減少、の3つの現象の総称だ。その中でも生産年齢人口の減少は、経済や企業経営に決定的な影響を与える。
② 出生数の減少が始まって20年後に生産年齢人口の減少が始まり、生産年齢人口の減少が多年続くと総人口の減少が始まる。つまり、総人口の減少が始まってから騒ぐのでは遅い。ロシアでは、一度大きく減った出生者数が増え始めているが、生産年齢人口は減っている。この事実に気付いて、ロシアの企業も対処を始める必要がある。
③ 欧州では、まだ総人口は減っていないが、生産年齢人口の減少はすでに始まっている。中国も欧州と同じだ。米国でも、生産年齢人口の増加はほとんど見られなくなっている。そして、中国、欧州、米国に共通して、高齢者の数が急増している。
④ 日本では出生数の減少が1970年代後半から、生産年齢人口の減少が1990年代後半から、総人口の減少が2010年代前半から始まった。世界に先駆けて人口成熟した日本にこそ、この現象への対処のヒントがある。
2時限目: 人口成熟が日本経済に与えた影響① かえって増した国際競争力
① 経済学では、生産年齢人口の減少は生産力を低下させ、供給不足でインフレを招くとされる。
② しかし生産や流通の分野で機械化、自動化、AI化の進む日本では、生産年齢人口の減少はまったく供給不足を生まなかった。
③ 労働者の減少は工業製品のコストを下げるので、日本の国際収支は大幅な黒字となっている。2018年には、米国から12兆円、中国(+香港)から6兆円、韓国・台湾・シンガポールからそれぞれ2兆円、ドイツから5千億円の経常収支黒字を稼いだ。
④ 日本の輸出品の主力は、車や電気製品ではなく、ハイテク部品、高機能素材、工作機械である。つまり、B to C ではなく B to B の製品であり、この転換が日本の競争力の維持強化という現実を見えにくくしている。
3時限目: 人口成熟が日本経済に与えた影響② 伸び悩む内需
① 近代経済学では、生産年齢人口の減少は生産力を低下させ、供給不足でインフレを招くとされる。しかし日本では生産力が落ちず、他方で需要数量が落ちたことから、逆にデフレを招くことになった。特に深刻なのが、一人1台、1戸を超えた需要の生まれない、車や家電、住宅の分野である。
② 日本の個人消費は1997年をピークに横ばいに転じ、現在も横ばいのままである。そのためGDPも、計算方式を変えR&D費用を参入するなどしてみたものの、結局1997年の水準のまま推移している。
③ 解決策は賃上げによって消費性向の高い若者と女性の所得水準を向上させることだが、人口成熟に伴う下げ圧力を緩和し、横ばいに持ち込むのがせいぜいとなっている。
④ 外国人移民は、絶対数が少なすぎ、増やしても日本人の減少を補えない。
⑤ 生産年齢人口の減る中国でも、内需の不振が始まっている。ロシアでも今後、同様の問題が顕在化してくる可能性がある。
4時限目: 内需不振への対応: 外国人観光客誘致の効果とノウハウ
① 日本では、外国人観光客の急増による消費増加が、人口成熟に対するカウンターパンチとして効き始めている。日本人の個人消費247兆円に対し外国人はまだ4兆円程度と、2%弱に過ぎないが、額自体は急成長しており、外国人観光客相手のビジネスは大きな利益を上げている。
② 日本では、豊かになった韓国、台湾、香港、シンガポールからの観光客が著しく増加しており、それに中国、東南アジアが続いていて、当面市場は急拡大を続ける。欧米人市場も、豪州を筆頭に成長が続く。ビザ要件の緩和は劇的な効果をもたらした。
③ 外国人観光客の消費を地域経済拡大につなげるキーワードは「地消地産」(地産地消ではないので注意)。消費されるものの原材料を極力地元産にすることが経済波及効果を拡大する。モデルはスイスで、うまくいってない悪い例は米国。ここに留意しないと、客数だけ増えても地域に経済効果が波及しない。講義では幾つかの実例を紹介する。
④ ロシアでも今後、現在の著しく不自由なビザ制度が改善されれば、観光客の拡大は必ず起きる。事実、電子ビザで渡航可能となった極東のウラジオストクでは、2018年夏から日本人観公約が急増し、空路も増便されている。
5時限目: 内需不振への対応: 農業の活性化
① ここ10年間の日本では、工業製品の国内向け出荷額が落ちているのに、農産品の出荷額は伸びている。その99%以上が国内向けであり、つまり内需が拡大している。これは20年以上ぶりの現象である。
② 人口が減っているのに農産物の内需が拡大しているのは、高齢者が健康のために高価な農産物を買う傾向が強まっているからだ。特に、野菜、果実、肉、卵の伸びが顕著である。
③ 日本の主要産業は工業とサービス業で、農民は日本人の2%しかいないが、農業地帯の農民の中には、国民平均の何倍も高い年収を稼ぐ者も増えている。
④ 農業を活かした地域活性化のキーワードは、6次産業化である。農産品を加工し、ブランド価値を高めて売ることが、地域経済拡大につながる。講義では幾つかの実例を紹介する。
講座の実施にあたりご協力いただき、感謝申し上げます。
・ウラル連邦大学付属ビジネス・スクール
・共同作業スペース「ホット・ポイント・エカテリンブルク」