日本は世界で最も長寿企業が多い国です。東京商工リサーチによると、100年以上前に2万社が設立され、その中の130社が400年以上前に設立、また6社が1230年以上営業しています。同時に、これらの企業は中小企業で、その分与構造に国は関与していません。例えば、日本だけでなく世界で最も古い会社である金剛組は、578年に創業、2006年に髙松建設(現髙松コンストラクショングループ)の子会社(現在は孫会社)へ移行しました。
ニジニ・ノヴゴロド日本センターが2021年9月17日に実施した無料WEBセミナー「危機を乗り越える中小企業経営」にて、中小企業診断士の松村正之講師はこう語りました。
長寿企業の多くは、家族企業として活動を始めました。前述の金剛組は何世紀にも渡って仏教寺院の建設技術を有する金剛一族が所有し、建築と修理に従事していました。 「にんべん」という会社は1699年に創業、創業から今までずっと鰹節と加工食品の製造・販売に従事しています。 1871年創業の有限会社渡辺酒造店は、酒類の製造を行っています。「長寿企業」には、民芸品や食品製造、宿泊や医療サービス提供に従事する企業が多く見受けられます。
企業が数世紀にわたって存在する場合、競争、売上の減少、消費者需要の変化という従来のリスクだけでなく、長寿企業固有のリスクにも直面します。そのような企業の活動研究と創設者のアンケートに基づいて、専門家は5つのリスクを指摘しています。
1.経営者を失う
病気、事故、もしくは自然の要因のために経営者を失うリスクは、最も現実的な問題のひとつとなっています。概してこれは会社の経営者、つまり創始者もしくは後継者です。損益分岐点を超え安定した収入に達した日本の中小企業の平均寿命は、30年と言われています。より成功した企業は二世代に渡り続いています。経営者が自分の会社のアイデアに情熱を注いでおり、数世代先の発展を予定している場合は、家族内で後継者を事前に準備します。会社の所有者に子孫がいない場合、子供だけでなく、養子縁組の家族に加わって事業を引き継ぐことができる娘婿を養子にするという養子縁組の慣習がありました。
2.イノベーションの導入
これらのリスクは、新技術の出現、原材料在庫の枯渇、法改正などに関係しています。時折これらの変化が非常に急激に起こり、伝統的な方法でビジネスを行っている企業が新しい現実に適応することは困難です。
3.自然災害
概して企業だけでなく日本在住者にとっての主なリスクは、地震とそれによる津波、台風や洪水です。火山の噴火だけでなく、大規模火災や疫病もあります。日本の領土全体は、環太平洋火山帯に位置しています。カムチャツカ半島から日本、フィリピン、ニューギニア、ニュージーランド、南極大陸までで、地球上で知られている540の火山のうち、この地帯に合計328の活火山があります。また、プレートの接合部に位置するこの地帯では、全世界の地震の90%が発生しています。したがって、日本のビジネスにとっての自然災害のリスクは、政治的リスクよりも現実的です。
4.政治的リスク
政治的リスクとは、革命、戦争、権力の掌握です。少なくとも100年前から存在している企業がこのリスクに直面するのは避けられません。経営者は、自分自身だけでなく社員に仕事を与え食べさせ続けるために、外交、企業、柔軟性を発揮せざるを得ません。すべての起業家がこれに耐えられるわけではなく、企業は稼ぎ手を失うリスクにも直面しています。
5.倫理的リスク
倫理的リスクには、金融詐欺、マネーロンダリングおよび資金の不正流用、契約違反などが含まれます。たとえば、排気ガス基準に関する文書の改ざんは、ビジネスを存続の危機に瀕させる可能性のある重大な罰則につながります。
金剛組は、その活動の1428年間、列挙されたリスクに1度とならず直面し、21世紀初頭まですべてのリスクを克服してきました。 1868年の明治維新の際に、仏教の迫害と仏教寺院の破壊を伴う神仏分離令が発布されました。一方で、金剛組は歴史的に四天王寺を建設のために設立、その後も仏教建設を専門としました。受注はなくなり、その結果、経営者は柔軟に対応することが必要となり、「西欧」日本が求めるオフィスや住宅を建設し始めました。金剛組は、日本で初めて伝統的な木造建築物にコンクリートを組み合わせました。経済危機と1927年の大恐慌により、会社は再び破滅の危機に瀕しました。当時37代目当主は、ストレスに耐えられず先祖の墓の前で自害しました。その結果、彼の妻の金剛よしゑは、危機を徐々に克服し始めたファミリービジネスを率いる最初で唯一の女性となりました。そして、1980年代に不動産投資をしただけで、金剛組は「バブル経済」と不動産市場の崩壊を乗り切ることができませんでした。 1992年のバブル崩壊後、会社の資産価値は急落しました。 2007年3月に倒産により会社を閉鎖し、その半年前に髙松建設(現高松コンストラクショングループ)の子会社へ移行しました。しかし、日本には金剛組の建設技術を伝える博物館や工房が未だに存在しています。
長寿企業の共通点:
1.「利益に対する債務」
例えば、金剛組の第32代目金剛八郎喜定は、19世紀後半に「職家心得之事」という家訓を執筆しました。それは将来のファミリービジネスの指導と維持のための16の訓戒でした。訓戒は、仕事の質や顧客満足だけでなく、ブランドの問題にも関係していました。たとえば、服装(自身の立場に応じて)、飲む量(適量を)、他人にどう接するか(最大限の敬意を払って)。しかし、家訓の最初の段落は、儒教、仏教、神道の教えを守り、大工技術を習得することが「私たちの最も重要な責任」であるというファミリービジネスの使命が書かれていました。つまり、金剛が自分の人生を評価する基準は、彼が自分の仕事を評価する手段と同じくらい成功のために重要なのです。緊密で安定した相互関係により、信用可能な長期収入を保障した顧客に対し公正価格で熟練した信用できるサービスを提供したため、金剛組は経済的困難を乗り切りました。
2.「三者満足」
ビジネスは売り手と買い手、そして製造者を満足させなければなりません。鰹節製造の「にんべん」は、1699年に魚屋として創業しました。 1860年代、将軍時代末期において、最も低い社会的地位は商人でした。しかし、彼らは最も豊かな階層でした。一方で侍は、商人からお金を借りていた最貧層でした。そのため、「にんべん」は地方自治体に融資することがよくありました。しかし、政権は変わり、誰も会社からの借金を返すつもりはありませんでした。ビジネスは存続の危機に瀕していました。しかし、会社は評判が良く、上層階級の顧客、社員やサプライヤーからのサポート、そして約200年の歴史のおかげで、経営者は親戚や知人から財政面で助けられ、その結果、にんべんは危機を克服することができました。
3.「ファミリービジネスは傘を開くように、徐々に拡大する必要があります」
中小企業は突然の変化を好まず、自分たちのビジネスを広くなるほど安定性が低くなる衝立と比較します。安定性は成長よりも彼らにとって重要です。しかし、これは大部分が理由付けされています。影響範囲の拡大は、中小企業にとって限定されており、リスクを冒すことはできないコストによります。したがって、もうひとつ長寿企業に共通することは、まず社会への貢献を考えること、次に利益を考えることです。すべての「長寿者」は、物質的同様非物質的に社員のモチベーションに大きな注意を払いました。会社に関与することで同一の目的を共有した社員の姿勢のおかげで、企業は何世紀にもわたって危機を乗り越えてきました。
柔軟性、プロフェッショナリズム、顧客志向、社員と社会に対する責任、長期計画(数十年先)、しかし同時に-起業家の情熱と時代の挑戦を受け入れる覚悟-長寿企業のリーダーを見分ける質。そして、日本は世界でそのような企業の数が最も多い国であるため、これらの質を日本人から学ぶ価値があります。